反面教師〜カドクラ家の例〜

買い物帰りに自宅前の角に差し掛かった所で、アンは異様な光景に仰天した。
夕暮れの決して狭くない通りをひしめく人々の、その多さ。
その全てが老若入り乱れた女性であったことに軽く嫌な予感を覚えつつも、アンは人並みをすり抜け、自宅へと歩んでいった。
「ちょっとタケル!一体どうなってんのよこれは!」
まだ自宅まで距離がある所で見知った少年を見つけるや否や、アンは彼に対し強い口調で状況を問い正した。
「いや母さん、僕も家に帰れなくて困ってるんだけど」
タケルも困惑した面持ちで、アンと周囲に交互に目をやりながら答えた。
「多分、父さんか、兄さん目当ての人達だと思う」
「いや、そうだとしたらこれは…レンマ目当てね」
(やっぱり、か)
今まさに息子の言葉に代弁された嫌な予感が、間違いないものであることを痛感してアンはうなだれた。
独身時代は勿論、武術で大活躍している現在もなお衰えない、夫に対する女性からの人気には
アンも常々頭を痛めていたところだが、つい最近からその悩みが二重になった。
成人したばかりの長男のレンマが、今年度のミスタープルトに選ばれたからである。
最近自宅に女性の訪問者が増えたのはそんなレンマを尋ねてであることは明らかだったが、
ここまで一気に独身女性が押し寄せることは、エナの子コンテスト以来初の休日であるこの日が初めてだった。
相変わらず引かない大衆の気配を客観的に観察しながら、アンは肩をすくめて言った。
「…タケル、あんたは奴らと同じ轍を踏まないことね」
「轍?さあね。僕も成人したらどうなるかわかんないけどね」
「…」
ニタリと笑う息子が堂々とした足取りで去っていく背中を唖然と見つめながら、アンは再びうなだれることとなった。

アンがやっとのことで帰宅すると、既に家族はぐったりと椅子や床に体を預けていた。
アンと同じく帰宅に労力を要したためか、家族で誰一人口を開こうとするものはいない。
まったりとした時が流れる中、やがて静寂は破られた。
話題の渦中。諸悪の根源様のご帰宅だ。
「ただいま!ねえねえみんな、俺明日タリアとデート」
「レンマ、早く結婚しなさい」
「へっ?」
お疲れの時分にハイテンションな長男の甲高い声を耳にしたことにより、家族全員の疲労がドッとピークに達する。
そもそもこんな目にあっているのは、さる混乱の中不在を貫いたこの長男が原因ではないのか。
唯一アンのみが、重い頭を回転させて元凶に意見しようとした。
「アッシュさんの娘さんなら申し分ないわ。チャッチャとすることして、結婚しなさい」
「すっ、すること、って!ええっ?!」
ここぞとばかりに、家長のトウガが口を挟む。
「そうだレンマ、浜辺で優しい言葉のとキスの一つでもくれてやったら、女なんてこっちのモンだぞ」
「あんたねぇ。『あんたが言うと説得力あるわね★』とでも言って欲しいの?言ってやろうか?」
「…マジすいませんでした」
挟んだ口は速攻で抓まれたようだ。
「とにかくレンマ!モテすぎるアンタがこの家に居る限り何かと疲れるのよ。わかる?」
「えっ母さん、それって俺が邪魔ってこと…」
「一刻も早く、結婚しなさい」
「っハイ!!」
今にも母の鋭い眼光にやられそうな長男が答えるべき言葉は、誰が考えても唯一つ。
実質的に一家を牛耳る母の迫力を、改めて家族全員が認識した夜であった。

その日からほどなくして、レンマは恋人タリア・アッシュとめでたく婚約する運びとなった。
それに関して、成人したばかりの彼の妹アリナは、思いつめた様子の兄から
「強引過ぎてタリアに嫌われるかと思った」と聞いた。彼なりに色々と必死だったようだ。
また、早くもプレイボーイ気質を垣間見せ始めている弟のタケルの夢に
「早く結婚すること」が加わったことを知り、思わず苦笑しまったことは言うまでもない。
「さて、私も恋人探すかなぁ」
(…ただしプレイボーイはちょっとね)
そう心に決めたアリナであった。

<END>


アン タケル レンマ アリナ
ネバログに載せた物を加筆しました。
レンマ成人年の25日、自宅付近のあまりにもの人溜まりにビビって思いついたお話。
そして将来、見事なまでに轍を踏んづけていくタケルなのでした(笑)
(2013/7/15)

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